5.科学者はどうすべきだったのか
2011年1月に2人の科学者にインタビューをした際,行政に利用されたとはさらさら思っていないような印象を受けました.国家市民保護局長官と州政府市民保護局長との電話音声のやり取りが出てきて初めて気付かれたのかもしれませんが,翌2012年4月に伺ったときは前年とは違ったようすでした.
科学者はどうすべきだったのか.率直には,なぜ記者会見の場に同席して,誤った会見を訂正しなかったのか,と思います.これを科学者らや国家市民保護局に聞いてみると,これまでの大災害委員会では会見は委員会開催後に必ず開かれていたわけではなかったのだそうです.私がインタビューをした科学者2名は,委員会が終わったのでローマに帰ろうとしている最中に,勝手に会見が開かれていたと言っていました.知らない間に自分たちの意図することとは異なる意見表明がなされていた可能性があるのです.
このことから,以下の教訓が得られます.行政や政治家の諮問で開催される委員会は明確な目的を持っていることが多いですが,科学はそのような一本道で意見ができるものではありません.しかも白黒はっきり結論できることなんてこの世の事象のごくわずかです.ですので,会見には科学者は同席して,偏った意見に収斂しそうな場合は,科学的見地から適宜修正すべきです.現在進行形の誰も結論が分からないような現象に関しては,そういった情報をすべて提供した上で,個々人による判断,あるいは政治的判断が下されるべきです.
次に,安全宣言が出されたというニュースを聞いてすぐに,「そこまで安全とは言っていない」と表明するべきだったと思います.それによってパニックが起きるかもしれない・・・という考えで辞めるのは政治判断であって,科学者のすることではありません.科学者は科学に正直に,科学的に安全とは言えないのであれば,「安全とは言えません」と伝えるべきでした.同じように「絶対に危険なことが起こるとも言えません」と言わなければならないので苦しいところですが,地震災害のように,ひとたび起きれば命にさし障る情報であるならば,たとえ確率は低くかったとしても表明しておくべきだったでしょう.(でもこれをやると,「煽ってんじゃねーよ!」という苦情や罵声が山ほど来てたいへんなのも事実です.)
最後に,やはり委員会の場で,もっときっちりと,安全か危険かの二分で物は言えない,と言うべきだったでしょう.先述のNHK-BSを拝見した限りでは,この点において,委員会の場でも,委員会メンバーが行政側の安全宣言に傾倒した意見が出されていたような印象を受けました.